昨夜遅く、ベランダへ通じるガラス戸を開けると蝉が飛び込んできた。部屋の明かりに呼ばれたのか、暫く部屋の中を飛び回った後に窓際のカーテンへしがみついた。さすがにそこで鳴かれたらとんでもなく煩いだろうなと思い、僕は指でつついて外へと追いやった。ジジッと鳴いてカーテンを離れたが、蝉はそのまま夜空へとは飛んでは行かず、ベランダの中に留まったようだ。まあ仕方がない。僕はガラス戸を閉め冷房のスイッチを入れた。
そして今朝、ガラス戸を開けるとベランダの床に蝉が腹を見せて転がっていた。しゃがみ込んでよく見てみると、6本の脚をウヨウヨと動かしている。未だ亡骸ではない。しかしもう間近だ。今まさに命を終えんとする生き物をどうしたら良いのか暫し考えた。他の場所に移すのは何かしらに反する気がしたので、蝉はそのままにしておく事にした。僕はガラス戸を締め、鞄を持って部屋を出た。
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