今放映中の ” JIN -仁- ” の第五話のラストにこういう場面があった。梅毒を患い末期の症状に苦しむ女郎を救おうと、江戸時代にタイムスリップした現代の医者が、当時には存在しえないペニシリンを用いて治療を施す。しかしペニシリンの精製が間に合わず、とうとう患者は最期を迎える。そして今際の際に女郎はこう呟いて、手を合わせたまま息を引き取るのである。
みなさま・・・ありがとう。けんど・・・苦しむことにも飽きなんした。堪忍しておくれなんし。・・・おさらばえ。
凄く印象に残る場面であったので少し検索してみたところ、同じように思う人はたくさん居るようで、数多くの記事がヒットした。特に「おさらばえ」の言葉が反響を呼んでいるようだ。僕にしても、なんと美しく響く言葉だろうかと打ち震えた。言葉を分解してみれば「それならば・それでは」という意味の「然らば」の頭に「御」を付け足し、尾に女性言葉の「え」を付け足した単純な言葉であるのだが、導き出される情感は果てしがない。
どうしてこんなにも美しい言葉が日本の社会から失われてしまったのだろうか。いろいろ調べてみると、どうもこの言葉は武家若しくは郭の女性が主に使っていたようで、時期を異にすれどもどちらも解体された階級若しくは職場であるので、そのタイミングで失われたのだろうか。惜しい事です。情感溢れる古の言葉は、近代化や合理化に馴染む事が出来ずに風化してしまったのかも知れません。そしてそれと共にある種の美しさをも失ってしまったように思える。
挨拶というのは大変美しいものだと思うのだけれど、それをしない人もたくさん居る。他人の事情は想像を以てしても知る事はできないが、挨拶なくして一体何時、好意や感謝を伝える事が出来るのだろうか、とも考えるのである。
December 4, 2009 at 23:02
「〜ざます」のほうは郭言葉でも少しだけ長生きしたのにねえ。
日本語ってのははかない言葉ですね。唐の時代と現代でほとんど変わらない中国語と比べると特にそう思います。それでも最近は中国語も若者の話し言葉から変わりはじめていて、どうやらこれは外国語の影響が大きいのですね。なかなかどうして日本語の影響とかもね、少なくないんです。
江戸時代後半から日本語は大きく変わりましたが、そういう影響が大きかったのではないかなぁ……などと想像します。外の文化と交わる時、熱量が高まりいろいろなものが変質しますが、デリケートなものはなくなってしまうのでしょうな。
December 5, 2009 at 19:11
中国語を全く解していないと想像が付きませんが、スラングのように崩れたり簡略化されるような感じなんでしょうか。
以前にもこういう放ししててそれきりになってましたが、あれから読んだ文献(ルース・ベネディクト「菊と刀」・永井荷風の日記や随筆)から読み取れるのは、江戸時代末期までの文化をことごとく破壊したのは明治政府(薩長土肥)みたいですな。そして国民はそれをあっさり受け容れたという事実もある訳ですが、考えてみれば国民も古きものを捨て去る事を望んだんでしょうな。
そしてやはり、外の文化との衝突があれば、生活の中に機微を保つ余裕もなく、合理化されて行ったのかも知れませんね。
December 5, 2009 at 23:19
山本夏彦が、文化をあっさりと壊しちゃったのは、関東大震災だと書いていたよ。
大正時代だ。
古いものを捨てたんじゃなくて、地震で焼けて無くなっちゃったんだとすると腑に落ちる。
December 6, 2009 at 01:36
そうそう、スラングですな。日本語で「チョー○○」って言い方あるじゃないですか。あれは中国にも輸出されていて「超○○」って言い方をするんですね。他にもFuckみたいな言い方とかね。これまではあまりなかったそうなんですよ。
日本語の場合は海外の言葉を輸入するのに新しい言葉を作ったじゃないですか、「社会」とか「自由」とか。実はこれってスゴくエラい事で、中国にも一部輸出されましてね。漢字文化を守ったといいますか。マレー語なんかだと英語に順次置き換わっていってしまって、月曜日から金曜日まで曜日は英語だし、電車も「急行」なんてことばはなくてEkspresですわ。
December 6, 2009 at 22:56
>ふり
家屋や公共の建造物に関してはそうだろうね。早急な復興の為には合理化を免れる事が出来なくて、普請の安い物で間に合わせ、それまできちんと伝統を受け継いでいたものは消失しているので、後年の生活の中でそれらを差す言葉を使う機会をも失う為に忘れ去られたという感じで。飽くまで想像だけど。
僕が読んだ文献だと、それまで各藩が所有していた家屋敷を打ち壊して、軍部の兵器庫かなんかに利用したりしていたみたいだよ。
>赤枕十庵
なるほど。そういう厳格な観点から言えば敢えて間違った言葉遣いが受け容れられ、広まってしまったという感じなのですな。
日本にしても、最早漢字を当てはめ日本語化するのが困難な言葉は普通に使われていますものね。Sexを今更性交とは言いませんものね。それにしてもマレー語は極端だなあ。