神宮の奥深い森は、けものたちを拒絶している。清らかな川の流れも、けものを寄せつけない自然の水濠に見える。人の手によってつくられた堀や荒垣も周囲にめぐらされている。けものは清浄であるべき神域にけがれをもたらす。かつて神域にいることを許されたのは、唯一、天皇から贈られた神馬だけだった。神宮では魚鳥を飼うことさえ禁じられていた。

仁科邦男著『犬の伊勢参り』平凡社新書 2013年 p.110