ずいぶん前に誰かから薦められていたのに、何やかんやで先延ばしにしていた。何やかんやと書いたが、実は僕の場合は誰かに何か薦められたとしても直ぐに観たり読んだり聴いたりする事は殆どなく、タイトルだけは記憶に留めておいて、何かの際にふと興味が沸いてようやく手にしてみるという事が多い。そういうものは未だたくさん在る。つれないと言われればそうなのだけれど、レンタル屋や本屋やCD屋で目にしても何となく「未だその時期ではない」と思って流してしまう事はしょっちゅうである。何かと出会うには適切なタイミングが在ると、僕は昔から信じている。

 さて、感想を記す。冒頭の、みうらじゅんを始めとする懐かしい「イカすバンド天国」の面々のインタビュー映像の次に、ギターのハーモニクスとブルースハープのメロディーと共に映し出されるJR高円寺駅の光景を目にした瞬間「あー、この映画はきっと好きだな。」と思った。それが何故なのかは説明出来ないけれど、ただそう思ったのだ。
 夜、何となしに観始めたので、僕はイトーヨーカドーのしょうゆヌードル(結構旨い)を食べながら画面を眺めていた。しかし気がつけば僕は涙を流しており、途中からは鼻水を啜るので精一杯で途中で食べるを止めてしまった。物語の内容は省く。そんな事書いても仕方がない。
 この映画の中で僕が大好きな場面が二つ在る。一つは、銀杏BOYZの峯田和伸扮する中島が、麻生久美子扮する彼女の部屋から、打ちひしがれて自転車を押しながら夜道を帰っていくところだ。道端で中島が部屋から出てくるのを待っていたディラン(劇中にはボブ・ディランが中島の見る幻影として登場する)が、俯きながら自転車を押す中島にそっと寄り添うように後ろをついていくという場面。
 そうなのだ。かつて僕が敬愛していたロック・ミュージシャンが歌った言葉や、インタビューか何かで語った言葉を、僕自身に何か起きた時や悩んでいる時なんかに口の中で復唱していた。信じるに値する言葉がもしあるのなら、それら以外には無いと思って毎日を生きていた。ロック・ミュージックとは音楽であると同時に文学でもあるような気がする。ひたすらに崇高なる美を求めるものではなく、収拾の付かない泥深泥の感情を拾い上げてくれるような、そんな音楽であるように思える。

 そして二つめは、中島と彼女がアパートの窓から少し身を乗り出すように、雪降る夜を眺めている場面。いーなあ、と思いながら観ていた。言ってみれば四畳半フォーク的な場面だが、好きな人と肩を並べて雪を眺めるというのは、とても美しい時間であると思うのだ。少しニュアンスは違うけれど、みうらじゅん原作の漫画にも同じ場面が隅の方にたった一コマ描かれている。僕の勝手な解釈だが、田口トモロヲもきっとその一コマが大好きであの場面を撮ったんだろうなあ。