私はよく、「ひきこもり」の治療を成熟の問題と結びつけます。しかし「成熟とは何か」とあらためて問われると、これはまたきわめて難しい問題です。精神医学、とりわけ精神分析の分野では、まさに「成熟」は一大テーマです。しかし本書では、ごく実用的な視点から、成熟のありようをごく簡単に述べておきたいと思います。私なりの「成熟のイメージ」は、次のようなものになります。「社会的な存在としての自分の位置づけについての安定したイメージを獲得し、他者との出会いによって過度に傷つけられない人」。もちろんこれは暫定的なものですが、おおむね私は、患者さんが最終的にこうあってほしいという理想像を持ちつつ治療に当たっています。
斎藤環著『社会的ひきこもり〜終わらない思春期〜』PHP新書 1998年 pp.113-114
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