中東大産油国で供給量が減少したにもかかわらず、先進諸国の石油輸入量がほとんど減らなかったのはなぜか。
 理由は二つある。
 第一に、供給量減少した産油国があったのと同時に、これに乗じて増産を図った産油国があったこと。
 第二に、国際石油市場の再配分機能が働き、特定輸入国に供給削減のしわ寄せが来ることがかなりの程度避けられ、非常に高い価格を支払うことができる先進諸国は、必要量のほとんどを結果的に輸入できたからである。
 上記理由のうち、特に重要なのが「市場の再配分機能」である。
 なぜなら、将来の石油危機を考えた場合、大きな余剰生産能力を持つ産油国が常に存在する保証はないが、国際石油市場の再配分機能は発揮されることがほぼ確実であるからである。この点の認識が、石油・エネルギー専門家以外の方々には必ずしも十分ではないと考えられる。
 政治家や国際政治の専門家などが、しばしば国産化、資源の囲い込みや特定産油国との同盟的な関係の構築を強く志向する発想の原点には、この認識がほとんど欠けているからというのは言い過ぎであろうか。平時においてだけでなく危機の際でも、多少時間はかかってものの、原油はスポット取引や転売・再転売、あるいは国際石油会社内部の再配分によって、不足が生じたところに回っていったし、原油がいったん精製されたガソリンや軽油等の石油製品でさえ高い価格を提示するところへ国境を越えてどんどん転売されていった。
 勿論完全とは言えないし、それが機能するまでに一定の時間もかかるし、大きな混乱も伴ったが、国際石油市場の再配分メカニズムは一般の方々が想像する以上に力強かった。
 従って、一番の問題は、いかにして危機時に価格の必要以上の暴騰を防ぐかである。

石井彰/藤和彦著『世界を動かす石油戦略』ちくま新書 2003年 pp.163-165