中東地域全体が抱える矛盾についても触れてみたい。
 九月一一日の同時多発テロ以降、イスラム原理主義やテロ組織の存在が再びクローズアップされてきたが、結論的には、将来中東世界が自らカオス状態に陥る可能性が高いと言わざるを得ない。その理由は大きく三つに大別される。
 まず第一に、アラブ・イスラム世界、特にアラビア湾岸の産油国はどこも人口爆発に悩まされており、今後若年層を中心とした失業率の高まり等を通じて社会の不満が鬱積するのが確実であることである。
 第二に、ほとんどの国の政治体制が、王政や権威主義的な体制、あるいは独裁体制であり、民主主義体制が十分に確立されておらず、社会の不満の鬱積を緩和する政治装置として適切でないこと、また、これらの体制が民主主義的な体制に変わる場合には、大きな紛争・混乱が不可避であると考えられることである。
 さらに、最後にこれら諸国の経済基盤のほとんどすべてが、石油または天然ガスの輸出に依存しているが、価格変動が大きい国際石油市場等の影響を受ける脆弱なものであることである。
 以上三つの要因は相互に関連している。一つの要因が悪化すれば、連鎖的に他の二つも悪化する構造になっている。また、大産油国の王族など富豪と非産油国の一般大衆との所得格差は極限的な状況となっており、格差解消の道筋はまったく見えない。
 このように、世界の石油輸出の中心であり、日本をはじめアジア諸国がその石油輸入のほとんどを依存している中東湾岸地域は、元来長期的には非常に不安定な地域である。
 経済躍進が著しく、これによって政治の民主化や社会の安定感が増しているアジアの状況とは大きく異なり、むしろサハラ砂漠以南のアフリカと同様で、地域の安定に向けたシナリオがほとんど書けないのである。

石井彰/藤和彦著『世界を動かす石油戦略』ちくま新書 2003年 pp.118-120