一生の間、歴史を学習し続ければ、どんどん自由になれる。これは当たり前のことです。芸術の世界だけではなく、どの業界にもその分野にも特有の文脈がありますが、「文脈の歴史のひきだしを開けたり閉めたりすること」が、価値や流行を生み出します。ひきだしを知らないまま自由自在に何かができるということは錯覚や誤解に過ぎません。そして、ひきだしを知らずに何かをやるという不可能なことに挑戦し続けてきたのが戦後の美術界だったのだと思うのです。ひきだしを知らずに作られた芸術作品は、「個人のものすごく小さな体験をもとにした、おもしろくも何ともない小っちゃい経験則のドラマ」にしかなりえません。小さな浪花節的な世界です。日本人はそういう生まれてから死ぬまでの小さな経験則が好きなんですけど、その程度のドラマしか設定できないことは、世界の表現の舞台で勝負する上では欠点になるのです。
村上隆著『芸術起業論』幻冬舎 2006年 pp.158-159
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