九〇年代アートは、こうしていわゆる現実志向の作品が主流をなすようになりました。理念や価値を提示する理想主義やエッセンシャリズムに代わり、眼前の現実の有り様に注意や関心を向けるスタンスが、広範に浸透していったように思います。
こうした変化の背景には、冷戦構造の崩壊が関与しています。東西の体制が競い合ってきた「豊かさ」や「解放」といった大きな物語が権威を失墜させたことで、断片化した現実に関心が向くようになったのです。アーティストがとりあげる現実の対象は、コンフリクトに満ちた社会問題(ポストユートピア)であったり、私的で身近な世界(インプライベート)であったりしました。
吉井仁実著『現代アートバブル いま、何が起きているのか』光文社新書 2008年 p.26
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