この十年、世界の主なビエンナーレでは、ポストコロニアルやグローバル・カルチャーといった大鉈の議論を雄弁に語るテーマ設定が流行り、似たような作家がリストに連なる傾向がある。私はそれを「空中戦の展覧会」と呼んでいるが、空中戦では地上の観客の顔は見えない。具体的にその展覧会がどのように受容され、人びとにどのような体験や知識をもたらしたかを展覧会のあとで調査する必要がある。準備の過程では人口、人種、世代、収入の構成、教育、文化、宗教も含めた都市の歴史、人びとの視覚的欲望の調査など、都市計画に近い文化的リサーチが必要である。これらの情報を都市計画家あるいはデベロッパーではない、キュレーターとしての視点で解釈、分析するのである。その意味ではキュレーターの仕事は都市人類学的なリサーチでもあり、個々の心理的・感情的レベルの分析者としての心理学的なリサーチをも含む。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 pp.93-94