アメリカのインディアナ州コロンバスは人口わずか4万4000人の小さな街だ。シカゴから車で3時間半から4時間ほどかかる田舎町だ。
 この街には建築デザインが優れた建物がたくさんあることでよく知られている。その礎を作ったのは一人の企業家だった。
 コロンバスには、カミンズというメーカーの本社がある。190カ国に拠点がある世界的なディーゼルエンジンメーカーだ。このカミンズを40年以上にわたって経営していたアーウィン・ミラーがこの街の建物のデザインを変えた人物である。
 ミラーは、経営者として人材の重要性をよくわかっていたため、「この小さな街に MIT やカルテックスのような優秀な大学の卒業生たちに来てもらうためにはどうすればいいか」と考えた。そこでミラー氏は街の建築物を変えることを考えたという。
 最初は教会だった。1942年に、フィンランド出身の著名な建築家、エリエル・サーリネンに依頼し、街の真ん中にファースト・クリスティアン・チャーチという教会を造った。次に彼は設計料を出す代わりに自分で選んだ建築家に街の学校の設計を任せることを街に提案した。

 (中略)

 こうした新しい建築物のおかげで街のイメージは一新された。しかも、学校や教育に関わる施設を見て、子どもたちがいい環境で勉強できることを知った優秀な人材がカミンズに就職するようになった。
 人を集めるにはまず環境から。それも、次世代を担う子どもたちが勉強する環境にお金と手間暇をかけるべきだ。そのとき、デザインは重要な働きをする。環境を目に見えるかたちで一新できるのはデザインだからだ。

蓑豊著『超〈集客力〉革命』角川oneテーマ21 2012年 pp.189-191