十数年前、パリのジュドポーム美術館で小学校低学年の課外授業の一団と一緒になったことがある。お人形のように愛らしい子供達だったので、注目してしばらく見ていた。ジャン・デュビュッフェの作品の前に座って先生は話しだした。その時、以外だったことは、引率の先生はほとんど説明らしいことは言わなかったことだ。むしろ逆に質問を子供達に投げかけていた。そうすると子供達は勝手なことを口々に言う。その様子がまたかわいい。
 「顔が恐い」とか「あの人は笑っている」だとか、騒ぐのではなく、感想を言い合うことを美術館を許していた。その光景を見ていて、私はつくづく日本の美術館もこういうことが出来ればどれだけ楽しい空間になるだろう、と思ったものだ。現代アート作品はコミュニケーションのための道具であると思う。だから意見や感想の違う人とディスカッションすることも現代アートの面白さの一つである。

山口裕美著『現代アートの入門の入門』光文社新書 2002年 p.83