一方、軍用機のデザインはどのような傾向をみせているのか。マーキングに関して言えば、軍用機は旅客機とまったく逆の途をたどるのである。第二次世界大戦以前の戦闘機や爆撃機は一般に、当時の旅客機よりはるかに派手な塗装が施されていた。主翼、尾翼ともに星や鉤十字などの軍のマークがでかでかと入れられ、機首には眼や獰猛そうな牙をむき出しにした口が描かれたりした。編隊やパイロット個人のエンブレム、撃墜数を表す敵軍のマークを勲章のように入れることもあった。ほとんど暴走族の車のごとき様相を呈していたのである。
 これは何も飛行機に限らず、古来、世界のどこでも兵器や武具にはそうした派手な装飾が施されることが多かった。美術品のように飾られることも多い鎧や甲冑などは、その端的な例であろう。派手な色使いやさまざまな勲章、装飾は、見方の戦意高揚と同時に、敵を畏怖させる力をすら帯びており、立派な戦術機能を持っていたのである。

森川嘉一郎著『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』幻冬舎 2003年 pp.203-204