DOG ON THE BEACH

A season passes. A castle can be seen. Where is a soul without a wound ?

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便所本

 誰しも自宅でウンコをする際には何かしらの本をトイレに持ち込むだろう。持ち込まない人も居るかも知れないが、そういう人はきっと多いと思う。僕にしても余程切羽詰まった状況でもなければ大概は本を持ち込む。便意を催したらトイレではなく先ず本棚に向かって、適当な書籍を選び取った後に初めてトイレに向かう。
 さて、このトイレに持ち込む書籍はその用途をしてかなり厳選される。先ず小さい事。文庫本サイズが望ましい。僕の部屋はユニットバスで、それにトイレも含まれており大変狭い。扉を閉めてしまえばその息苦しさに用も足せない程だ。そんな空間に持ち込む書籍は小さいに越したことはない。次に短い時間で鑑賞し終える構成である事。時間にして数十秒から長くて3分。これだと小説や漫画の類は無理。エッセイ集や雑誌もギリギリ駄目だ。その本から何かを得るのに時間が掛かかるものは適さないし雑誌は大き過ぎる。そう考えると写真集か詩集になるだろうか。色々試したが、以下に僕の定番便所本を掲げる。

新宿+ / 森山大道: 写真集「新宿」の文庫版。森山大道の写真集の中では一番キャッチーだと思う。しかし版のサイズは良いのだけれど厚さが5cmもあるので少々扱い難い。そのうちに頁がバラけてくるんじゃないかと思う。

今日のつぶやき / リリー・フランキーとロックンロールニュース: リリー・フランキーのHPのコンテンツを書籍化したもの。ホントに一言だし、適度に下品なところが良い。これが「誰も知らない名言集」だと少し長過ぎる。

TOKYO STYLE / 都築 響一: 東京における住空間の混沌と美を集めた写真集。僕はお洒落で高級な住空間より、こんなにも創意工夫に溢れ、人々の生活の機微が目に見えてくるような空間の方が好きだ。とても暖かい。

 ★

 余り関係ないけど、松本大洋の「青い春」の単行本の帯に「不良本である」とあって、なんてカッコ良いコピーなんだ!と思った記憶がある。このエントリのタイトルはそこからの流用なんだけど、そこまで知っていてその本は持ってない。でも内容は知ってる。何故だ? 因みに映画版のDVDは持ってるがそこには出てこない。不思議だ。

パレード / 吉田 修一

 この小説、マンションの2LDKの部屋に同居する5人の男女の物語です。各章、それぞれの視点で語られていく訳ですが、よくあるパラレルな構成ではありません。話は順番に、数珠繋ぎに進んでいきます。珍しい構成だなあ、と思いつつも今朝電車の中で読んでいる時までは、文体や会話が大変面白くて、それを楽しむように読んでいました。しかし、がしかし、それだけではなかったのです。丁度帰りの電車の中で読み終えるタイミングで、各登場人物がそれぞれの内情を吐露しつつ、何事も無かったようにこの小説は終わるんだろうなぐらいに思っていましたが、それは私の軽率な考えに過ぎませんでした。最終章の終わりに、もの凄いテンションまで持ち上げられ唐突に終わりを告げられます。そういう事だったのか! 私は最後の最後まで気付く事が出来ませんでした。良く出来た小説です。レイモンド・チャンドラーの ” 長いお別れ ” よりも、それまでがほのぼのとしていただけにショックが大きい。やられました。

虚の王 / 馳 星周

 読み終わりました。体調崩しているくせに何故こんな刺激の強い小説を読んでいるのか自分でも不思議。そういう時期なのだ、としか言いようがない。

 さて、この小説は渋谷を舞台にしていて、元チーマーで今は覚醒剤の売人という少年と、女子高校生売春組織を仕切る男子高校生が主軸となった物語で、それにサポート校の女性教師、その生徒のストリート雑誌のモデルの女子高生が絡んで行きます。この人物設定だけでもロクな事にならないのが想像出来てしまうという、或る意味大変分かりやすい小説です。そして予想に違わず、登場人物達は破滅に向かってひた走る訳です。嫌だろうが怖かろうが痛かろうが未来が無かろうが目の前に自分の死体がブラ下がっている気がしていようが、とにかく前へ進むしか道が無い。そういう小説です。氏の小説はだいたいそんな感じです。そういうのがお好きな方はどうぞ。読んで気分が良くなる事は有りません。ただ、妙な開放感は有ります。それはきっと、異常(と思える)な世界から視線を上げた時に、自分の身を置く世界の正常(と思える)さに、ほっと胸を撫で下ろすからなのでしょう。

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