DOG ON THE BEACH

A season passes. A castle can be seen. Where is a soul without a wound ?

Tag: art (page 9 of 18)

 人びとの潜在的な願望や創造性を引き出す力、これが次世代のキュレーションとして最も期待される能力である。タイの映画監督でアーティストのアピチャッポン・ウィーラセタクンは、普通の人びとに自宅でソープオペラの主人公を演じさせたり、役者から聞いた自伝的ストーリーをもとにその場で脚本をつくっていく。「ハリウッド映画は観客のの欲望をひきだして映像として見せる。僕の映画は僕の欲望を人びとに見せながら、観客と一緒に新しいテリトリーに入っていく」と語る彼は、この新たな文脈の創始者の一人といってもよい。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 pp.147-148

 インターフェイスや体験空間のデザインがエンタテイメントを参照することは、美術館やアートワールド全体の資本主義との関係強化とあいまって、面白いがリスキーでもある。その混乱や揺らぎは、アートが建築、デザイン、映像、社会学や科学など他のジャンルと横断的に関わり、その境界が曖昧化していることと連動する。
 総じて言えば、アートにおいて観客の関与が大きくなればなるほど、ヴァナキュラーでローカルなアートシーン、特に都市を中心としたマルチモダニズムの形成が促進されることになる。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 pp.144-145

 関係を見せる、形成するという要素には、空間と併せて多くの人的・設備的インフラを必要とする。わかりやすい例でいえば、ワークショップであるが、これは現在、普及プログラムの枠を越えて、作品形式の一部となっている。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 p.138

 セクシュアリティは肉体的な性差であり、ジェンダーは社会的な性差を指す。エロスは主としてセクシュアリティにまつわる表象や身振りから、においたつものといえる。少し前になるが、アメリカのあるキュレーターはこう嘆いていた、「いまやアーティストは皆十四歳の少年少女のままでいたがる。観客もそうだ」。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 p.106

 この十年、世界の主なビエンナーレでは、ポストコロニアルやグローバル・カルチャーといった大鉈の議論を雄弁に語るテーマ設定が流行り、似たような作家がリストに連なる傾向がある。私はそれを「空中戦の展覧会」と呼んでいるが、空中戦では地上の観客の顔は見えない。具体的にその展覧会がどのように受容され、人びとにどのような体験や知識をもたらしたかを展覧会のあとで調査する必要がある。準備の過程では人口、人種、世代、収入の構成、教育、文化、宗教も含めた都市の歴史、人びとの視覚的欲望の調査など、都市計画に近い文化的リサーチが必要である。これらの情報を都市計画家あるいはデベロッパーではない、キュレーターとしての視点で解釈、分析するのである。その意味ではキュレーターの仕事は都市人類学的なリサーチでもあり、個々の心理的・感情的レベルの分析者としての心理学的なリサーチをも含む。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 pp.93-94

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