日本人の「芸術」の定義は曖昧なものでした。日本人美術家は独自の見解にいつも自信がなく、作品の根拠も薄く、客観性に乏しく・・・・・・ジャポニズムも結果的には写楽や北斎をハイアートの文脈でカテゴライズしてくれたのはフランス人やイギリス人であり、日本人が写楽や北斎のステイタスを作ったわけではありません。浮世絵に力があったというより欧米の作ってくれた文脈に踊らされたとも言えるのです。
村上隆著『芸術起業論』幻冬舎 2006年 pp.78-79
日本人の「芸術」の定義は曖昧なものでした。日本人美術家は独自の見解にいつも自信がなく、作品の根拠も薄く、客観性に乏しく・・・・・・ジャポニズムも結果的には写楽や北斎をハイアートの文脈でカテゴライズしてくれたのはフランス人やイギリス人であり、日本人が写楽や北斎のステイタスを作ったわけではありません。浮世絵に力があったというより欧米の作ってくれた文脈に踊らされたとも言えるのです。
村上隆著『芸術起業論』幻冬舎 2006年 pp.78-79
ムラカミ・モノグラムをはじめとするルイ・ヴィトンとのコラボレーションは、「ブランドと芸術の融合はいいことである」という扉を開けてしまったようです。
先日、大規模な予算をかけてリニューアルオープンしたパリのシャンゼリゼ通りのルイ・ヴィトンの本店に行くと、ジェームズ・タレルをはじめ尊敬する芸術家たちがルイ・ヴィトンと組んで店内内装を担当していたのです。
仮にルイ・ヴィトンを現代の王侯貴族と捉えてみます。ビッグクライアントの下で作品を作ることは肯定しています。「アーティストがファッションブランドと組む」ということは、悪役としてわざと掟を破る行動のはずでしただからこそぼくは躊躇がなさすぎるくらいに破廉恥に本格的にルイ・ヴィトンと組んで結果を出してきたのです。
ところがそれを欧米の本場の芸術家たちは「アートの文脈」として評価するのではなくて、「ムラカミ、うまくやりやがって。うらやましいなぁ」と捉えていたことがわかったのです。「ブランドと組んでも。ムラカミは芸術家としてのプレステージが下がるどころがオークションで高値を更新している。ルイ・ヴィトンと組むなら、芸術家としてのプレステージは上がっていくんだな。俺もやろう!」芸術家に、金銭の欠如を埋めるための詭弁を作ってあげてしまっただけだったのです。
村上隆著『芸術起業論』幻冬舎 2006年 pp.69-70
人のできることを極めたお金持ちが「人を超えたい」と願うのは自然のなりゆきです。過去の超人を探索してゆく中で「天才の見た風景」を見たくなるのも、当然の欲求です。天才の痕跡を目前にすることで、現実の限界を突破するヒントも手に入れたいと願う気持ちには切実なものがあります。成功した人が芸術やスポーツに走るのは超人願望関係しているのです。
(中略)
壊れた世界で命を燃やさなければいけないお金持ちの「物足りなさ」が芸術に向かいますから、金銭ですべて解決してきたはずの富裕者の見えない欲望を確認するかのように、精神異常者の作品や性的虐待を含む作品が求められる時もあります。
村上隆著『芸術起業論』幻冬舎 2006年 p.55
近代美術の鑑賞は美術教育の延長にあり、美術史・美術理論に関する学術的研究がベースになります。印象派は色や光の理論、ピカソやセザンヌにいたっては、キュビスム独自の平面と空間の理論が必要になります。
時代背景やモチーフを理解するのもひと苦労です。ゴッホにはゴーギャンとの関係があり、ピカソは自分が愛した女性や身の回りの事物を題材とし、マティスには南仏の原風景があり、シャガールにはロシアという出自があります。時の隔たりを越えて、彼らが見ていたもの、感じていたものを共有するには、歴史学的考証によって掘り起こされた学術的知識の助けが必要になります。
これに対し、同時代に生きる生身の人間が生みだしている現代美術には、自分に近い感性や問題意識が見つけやすいのではないでしょうか。また、近代美術は自然的世界を視覚表現に置き換えていくものなのに対し、現代美術のほうは、自然を表現するという目的に縛られない、どこまでも自由な形態を持ち得るものです。現代美術にとって重要なのは、自分の見方、感じ方です。新しいものに向かうわくわくした気持ちで、フラットな想像力を働かせることが理解の源泉なのです。
吉井仁実著『現代アートバブル いま、何が起きているのか』光文社新書 2008年 pp.158-159
欧米のアートマーケットの基盤には、作家や作品に価値を与えていくアートビジネスの構造があります。これは、アーティストをブランディングしていく上手な仕組みとも言えます。著名な国際展、アートフェア、オークションは、互いに連動しながら一つのサーキットとして成立しています。
例えば、春先にニューヨークで有名なアートフェアが開催された後には、ニューヨークとロンドンで話題の作品が一挙に競り出される注目のオークションが開催され、初夏にはスイスのバーゼル・アートフェアに世界中の一流ギャラリーが集まります。バーゼル・アートフェアのオープニングのすぐ後には、ヴェネチア・ビエンナーレ(イタリア・二年に一度)、ドクメンタ(ドイツ・五年に一度)、ミュンスター彫刻プロジェクト(ドイツ・一〇年に一度)が開催され、秋が近づくとパリのフィアック・アートフェア、ロンドンのフリーズ・アートフェアがあり、その後再びニューヨークとロンドンで大きなオークションが開催されます。そして、冬にはアメリカ東海岸のアート・バーゼル・マイアミビーチが一年を締めくくります。
毎年このような世界的なサーキットに乗って、アートマーケットは巨額の利益を生み出しています。
吉井仁実著『現代アートバブル いま、何が起きているのか』光文社新書 2008年 pp.120-121
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