DOG ON THE BEACH

A season passes. A castle can be seen. Where is a soul without a wound ?

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蓑:金沢で面白いことをしているんです。金沢は今でも芸妓さんが健在でね。芸妓さんというのは日本文化を伝える大事な道具だと私は思っています。それで、金沢の街ではいろんなコンベンションが開催されますから、そのときに皆さんの税金で、そういう人たちをコンベンションに使っていただくようにしいているのです。
 金沢21世紀美術館でもコンベンションは頻繁に開かれますから、うちの出演料はうちで出して来てもらいます。コンベンションの出席者が個人個人で芸妓さんに花代を出すのではなくて、こちらがそういう場所を提供する。そうすると、日本中から集まってくる人たちが、金沢はすごいなあということになるわけです。

村上:いい話ですね、それは。

蓑:だから金沢には、今でもちゃんと芸妓さんがいるんです。地方ではどんどんいなくなっているのにね。昔と違って財力がなくなってきているから、芸妓さんを呼んで日本の文化を楽しむ余裕がなくなってしまったのですよ。

村上:戦前は税制などの関係もあって、富が一極集中する可能性がありましたよね。芸者にしても、芸術にしても、そういう旦那衆がお金を投じて、一つの芸をぐっと底上げしてくれたではないですか。ところが今は、税制においても一極集中することはあり得なくなってきた。これは文化にとっては痛手ですね。

蓑:すごい打撃です。やっぱり文化はスポンサーですよ。

蓑豊著『超・美術館革命ー金沢21世紀美術館の挑戦』角川oneテーマ21 2007年 pp.175-176

村上:日本の美術館とアメリカの美術館との大きな違いは何でしょうか?

蓑:日本の場合は公立で、市民の税金でまかなわれている美術館が多いですよね。外国では皆さんから集めた寄附で運営している美術館が主流です。街全体が、皆さんお金を出してくれるのですよ。もちろん、入場料のほかににですよ。企業も出すし、個人も出す。だからみんな美術館を自分たちの誇りだと思っている。
 どうも日本の場合は、あれはお役所が建てたものだという意識があって、あまり親しみを感じない。これが一番大きな違いじゃないかな。

村上:日本の美術館は寄附を受け付けないのですか?

蓑:税制がね。寄付してもらっても中央に言っちゃいますから。役所に行っちゃうとか。

村上:そこを変革する必要がありますね。

蓑:それが一番大事。財務省が本当に税制改革しなかったら、日本の文化は育たないと思う。私が言いたいのは、阿部総理が掲げた「美しい国」ですよ。これだけの文化国家で、しかも大国なのに、そこに「文科省」がないというのは、これは大きな欠陥ですよ。

村上:防衛省はできたのですからね。

蓑:防衛省は作っても、文科省はないんですよ。それぐらいないと、日本の文化は育ちませんよ。皆さんが文化にお金を出したって税金で取られるなら、これは誰も出しませんよ。

村上:芸術にとって、未来があるんですかね、日本って。

蓑:文科省をつくれば未来はあるね。文科省を作れない国家だったら、文化は育たない。

村上:なんでないのですかね。こんなに潜在的な文化は豊なのに。今、海外からの日本への旅行者がすごく多いじゃないですか。これは何なのかとずっと思っていたのですが、やっぱり、平和な国だからだと思うんです。六十年以上も平和な国だったということと、安全ですよね。安全というのはすごいブランドだし、食べるものもおいしいし、街もきれいだし、どこへ行っても風光明媚ですよね。ブランドの塊みたいな国なんだけれど、文科省はない。

蓑:ない。おかしい。これが売り物になるのに、しない。

蓑豊著『超・美術館革命ー金沢21世紀美術館の挑戦』角川oneテーマ21 2007年 pp.172-174

 全小中学生を招待して彼らの反応を観察したとき、私は感じたことがあった。やっぱり一、二年生では、まだ集中力がないので、ここで作品に触れたことをあまり覚えていないだろう。五、六年生もダメ。中学になったらもっとダメになる。なぜか。五、六年生になると、異性に興味を持ち始めるからだ。美術館に来ても、好きな異性ばかり気になって、作品を見るどころではない。
 だから小学四年生、十歳なのだ。これは私の観察から得た私なりの結論だったが、学校の先生はみんな知っていることだと判った。教えるのは四年生が一番ラクだ。なぜラクかというと、四年生というのは何でも興味を持つころなので、何を教えても吸収していけるからなのだという。そのために、どの学校でも、低学年や五、六年生に力のある先生を配置し、四年生は凡庸な先生に担当させる傾向があるという。私に言わせれば、四年生にこそクリエイティブな先生を担任にしてほしい。そうすれば、日本の学校は絶対に変わるはずである。

蓑豊著『超・美術館革命ー金沢21世紀美術館の挑戦』角川oneテーマ21 2007年 p.114

 子どもというのは、万国共通、常に大人になりたい、大人になりたいと思っている存在である。常に大人と同じ土俵で勝負したいと思っている。金沢21世紀美術館の「もう一回券」が七千枚も回収されたのも、子どものそういう気持ちを捉えたからだ。「ぼくには、わたしには切符があるから、お母さん、お父さんも一緒に行こうよ」と親を誘う喜び。美術館に来ても、親とは別に自分は自分の切符を出す、この喜び。この気持ちが大人には解っていない。

蓑豊著『超・美術館革命ー金沢21世紀美術館の挑戦』角川oneテーマ21 2007年 p.108

 金沢21世紀美術館を語る上で欠かせないキーワード、それが「子ども」である。
 私はここを子どもに感動を与える美術館にし、美術を通して子どもたちの想像力を高め、心を豊かにしたいと考えていた。だから、子どもの目線でこの美術館を作ろうと心掛けた。
 子どもは暗いところは嫌いなので明るくする。子どもは、自分と同じ背丈の子どもの姿が見えれば一緒に参加しようと思うから、中が見えるようにする。子どもはガードマンの姿を見ると本能的に萎縮するから、ガードマンは置かない。実際は警備員はちゃんと配置しているのだが、警官のような制服は着せていない。そして、子どもたちが好奇心をかき立てられながら遊べる作品をたくさん用意する。
 こういった配慮の結果、実に多くの子どもたちが遊びにくるようになった。ゲームにばかりうつつをぬかしていると大人が心配する子どもたちが、ここでは羽を伸ばして奇妙な体験に興じている。だから館内は、いつも驚きの声や歓声で満ちている。事務室にいても叫び声や話し声が響いてくる。

蓑豊著『超・美術館革命ー金沢21世紀美術館の挑戦』角川oneテーマ21 2007年 pp.14-15

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