福原:もう一つ美術館が会社と違うのは、学芸員は転勤がない場合がほとんどなんですね。ごく稀に、同じ自治体の別の館へ、ということがありますけど、それは東京のような大都市くらいのものでね。まあ、あまりないんですよ。それで、研究一筋でしょう。その研究も、美術全体を見ながら研究してくれればいいんだけど、江戸時代の誰それの浮世絵をずっと研究してますという場合が多い。研究範囲を狭めないと研究成果が上がらないから、そうすると、視野が狭くなってしまうんです。
会社の場合は転勤があるから、ほかの世界を見てからまた戻ってくることもありますが、美術館はそれができない。もちろん学芸員はあくまで専門性を追求していくのが仕事ですが、そのため人間の幅が広がりにくいし、世界が狭くなりがちです。彼らの視野を広げる刺激を与えるのが館長の仕事だと思います。それを防ぐために、私は学芸員たちに、なるべくよその美術館を見に行けと言っています。
ほかの美術館を見に行けば、美術館のありようが外から見えるし、誰が何を誰に見せようとしているのかというポイントが見えてきます。いまや日本には美術館がたくさんあって、各館それぞれ工夫している。そのエッセンスを採り入れないのはもったいないと思うんです。東京で言えば板橋区立美術館が一生懸命やっていますよ。
蓑豊著『超〈集客力〉革命』角川oneテーマ21 2012年 pp.207-208
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