DOG ON THE BEACH

A season passes. A castle can be seen. Where is a soul without a wound ?

Tag: art (page 14 of 18)

福原:もう一つ美術館が会社と違うのは、学芸員は転勤がない場合がほとんどなんですね。ごく稀に、同じ自治体の別の館へ、ということがありますけど、それは東京のような大都市くらいのものでね。まあ、あまりないんですよ。それで、研究一筋でしょう。その研究も、美術全体を見ながら研究してくれればいいんだけど、江戸時代の誰それの浮世絵をずっと研究してますという場合が多い。研究範囲を狭めないと研究成果が上がらないから、そうすると、視野が狭くなってしまうんです。
 会社の場合は転勤があるから、ほかの世界を見てからまた戻ってくることもありますが、美術館はそれができない。もちろん学芸員はあくまで専門性を追求していくのが仕事ですが、そのため人間の幅が広がりにくいし、世界が狭くなりがちです。彼らの視野を広げる刺激を与えるのが館長の仕事だと思います。それを防ぐために、私は学芸員たちに、なるべくよその美術館を見に行けと言っています。
 ほかの美術館を見に行けば、美術館のありようが外から見えるし、誰が何を誰に見せようとしているのかというポイントが見えてきます。いまや日本には美術館がたくさんあって、各館それぞれ工夫している。そのエッセンスを採り入れないのはもったいないと思うんです。東京で言えば板橋区立美術館が一生懸命やっていますよ。

蓑豊著『超〈集客力〉革命』角川oneテーマ21 2012年 pp.207-208

蓑:お客さまに来てもらうためには、ポスターのデザインも重要ですね。それもデザインが良いか悪いかではなく、まず、どこでやっているのか、いつからいつまでやっているのかがはっきりわかること。でも、デザイナーはたいてい、美術館の名前を小さくしちゃうんですよ。

福原:デザイン優先なんでしょうけど困りますね。いくら言ってもなかなか直らないんです。だから最後の手段で、当館ではこのポスターのサイズならロゴは最低何センチと大きさを決めたんですよ(笑)。

蓑豊著『超〈集客力〉革命』角川oneテーマ21 2012年 p.206

 アメリカのインディアナ州コロンバスは人口わずか4万4000人の小さな街だ。シカゴから車で3時間半から4時間ほどかかる田舎町だ。
 この街には建築デザインが優れた建物がたくさんあることでよく知られている。その礎を作ったのは一人の企業家だった。
 コロンバスには、カミンズというメーカーの本社がある。190カ国に拠点がある世界的なディーゼルエンジンメーカーだ。このカミンズを40年以上にわたって経営していたアーウィン・ミラーがこの街の建物のデザインを変えた人物である。
 ミラーは、経営者として人材の重要性をよくわかっていたため、「この小さな街に MIT やカルテックスのような優秀な大学の卒業生たちに来てもらうためにはどうすればいいか」と考えた。そこでミラー氏は街の建築物を変えることを考えたという。
 最初は教会だった。1942年に、フィンランド出身の著名な建築家、エリエル・サーリネンに依頼し、街の真ん中にファースト・クリスティアン・チャーチという教会を造った。次に彼は設計料を出す代わりに自分で選んだ建築家に街の学校の設計を任せることを街に提案した。

 (中略)

 こうした新しい建築物のおかげで街のイメージは一新された。しかも、学校や教育に関わる施設を見て、子どもたちがいい環境で勉強できることを知った優秀な人材がカミンズに就職するようになった。
 人を集めるにはまず環境から。それも、次世代を担う子どもたちが勉強する環境にお金と手間暇をかけるべきだ。そのとき、デザインは重要な働きをする。環境を目に見えるかたちで一新できるのはデザインだからだ。

蓑豊著『超〈集客力〉革命』角川oneテーマ21 2012年 pp.189-191

 日本では学芸員をキュレーターを呼ぶことがあるが本来の意味からはズレている。欧米でキュレーターと名乗れるのは、美術館の「部長」クラスだけ。キュレーターとは部門のトップであり、展覧会の企画から予算管理までを任されるプロデューサーを指す。
 私の場合、シカゴ美術館で東洋部長を務めたときがキュレーターとしての「メジャーリーグ入り」だった。キュレーターの下にはアソシエイト、アシスタントがいる。そして、さらにその下にテクニシャンと呼ばれる研究員がいる。日本の美術館の学芸員のほとんどはテクニシャンにあたる。学芸員が美術館経営に関わることがないのはそのためだ。

蓑豊著『超〈集客力〉革命』角川oneテーマ21 2012年 pp.92-93

蓑:金沢で面白いことをしているんです。金沢は今でも芸妓さんが健在でね。芸妓さんというのは日本文化を伝える大事な道具だと私は思っています。それで、金沢の街ではいろんなコンベンションが開催されますから、そのときに皆さんの税金で、そういう人たちをコンベンションに使っていただくようにしいているのです。
 金沢21世紀美術館でもコンベンションは頻繁に開かれますから、うちの出演料はうちで出して来てもらいます。コンベンションの出席者が個人個人で芸妓さんに花代を出すのではなくて、こちらがそういう場所を提供する。そうすると、日本中から集まってくる人たちが、金沢はすごいなあということになるわけです。

村上:いい話ですね、それは。

蓑:だから金沢には、今でもちゃんと芸妓さんがいるんです。地方ではどんどんいなくなっているのにね。昔と違って財力がなくなってきているから、芸妓さんを呼んで日本の文化を楽しむ余裕がなくなってしまったのですよ。

村上:戦前は税制などの関係もあって、富が一極集中する可能性がありましたよね。芸者にしても、芸術にしても、そういう旦那衆がお金を投じて、一つの芸をぐっと底上げしてくれたではないですか。ところが今は、税制においても一極集中することはあり得なくなってきた。これは文化にとっては痛手ですね。

蓑:すごい打撃です。やっぱり文化はスポンサーですよ。

蓑豊著『超・美術館革命ー金沢21世紀美術館の挑戦』角川oneテーマ21 2007年 pp.175-176

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