DOG ON THE BEACH

A season passes. A castle can be seen. Where is a soul without a wound ?

Month: February 2016 (page 2 of 3)

 日本の場合は特に、欧米と違って、メジャーのような自前の原油ソースやアクセス・ルートを持つ石油会社がほとんど存在していなかったために、「消費者への石油の安定供給」という使命に焦って、結果的には日本の業界自身が世界で真っ先にパニックに陥ってしまうという苦い経験をすることになった。
 石油調達ソースが多様化されておらず、ほとんどシェルやエッソ(現在のエクソン)、モービルなどメジャー頼みであった。このため、メジャーズが本国への供給を優先して日本へ石油を回してこないのではないかと石油会社も政府もたちまち疑心暗鬼に陥ってしまった。産油国に日本の石油会社の自前油田がほとんどなかったために産油国の情報も十分取れず、世界の消費国の中で真っ先にパニックになった。
 この結果、日本の石油会社やその意を受けた日本の商社が、石油禁輸を行わなかったイラン産などのスポット物の石油に一斉に群がって、自らとんでもない高価格をオファーしてしまった。これを見たサウジなどアラブ産油国、OPECが非常に強気になり、長期契約物の石油価格も一方的に一気に大幅に引き上げてしまって、世界の石油価格全体が急騰、暴騰してしまった。調達手段の多様性のなさが、自分で自分の首を絞める原因となった。

 (中略)

 要するに、国際石油市場の再配分機能は何とか機能していたのに、資源へのアクセスの多様性がなかった石油会社や国がパニック的な行動に陥ったり、不適切な政治介入などによって、必要以上に事態が悪化してしまったのである。

石井彰/藤和彦著『世界を動かす石油戦略』ちくま新書 2003年 pp.168-170

 中東大産油国で供給量が減少したにもかかわらず、先進諸国の石油輸入量がほとんど減らなかったのはなぜか。
 理由は二つある。
 第一に、供給量減少した産油国があったのと同時に、これに乗じて増産を図った産油国があったこと。
 第二に、国際石油市場の再配分機能が働き、特定輸入国に供給削減のしわ寄せが来ることがかなりの程度避けられ、非常に高い価格を支払うことができる先進諸国は、必要量のほとんどを結果的に輸入できたからである。
 上記理由のうち、特に重要なのが「市場の再配分機能」である。
 なぜなら、将来の石油危機を考えた場合、大きな余剰生産能力を持つ産油国が常に存在する保証はないが、国際石油市場の再配分機能は発揮されることがほぼ確実であるからである。この点の認識が、石油・エネルギー専門家以外の方々には必ずしも十分ではないと考えられる。
 政治家や国際政治の専門家などが、しばしば国産化、資源の囲い込みや特定産油国との同盟的な関係の構築を強く志向する発想の原点には、この認識がほとんど欠けているからというのは言い過ぎであろうか。平時においてだけでなく危機の際でも、多少時間はかかってものの、原油はスポット取引や転売・再転売、あるいは国際石油会社内部の再配分によって、不足が生じたところに回っていったし、原油がいったん精製されたガソリンや軽油等の石油製品でさえ高い価格を提示するところへ国境を越えてどんどん転売されていった。
 勿論完全とは言えないし、それが機能するまでに一定の時間もかかるし、大きな混乱も伴ったが、国際石油市場の再配分メカニズムは一般の方々が想像する以上に力強かった。
 従って、一番の問題は、いかにして危機時に価格の必要以上の暴騰を防ぐかである。

石井彰/藤和彦著『世界を動かす石油戦略』ちくま新書 2003年 pp.163-165

 中東地域全体が抱える矛盾についても触れてみたい。
 九月一一日の同時多発テロ以降、イスラム原理主義やテロ組織の存在が再びクローズアップされてきたが、結論的には、将来中東世界が自らカオス状態に陥る可能性が高いと言わざるを得ない。その理由は大きく三つに大別される。
 まず第一に、アラブ・イスラム世界、特にアラビア湾岸の産油国はどこも人口爆発に悩まされており、今後若年層を中心とした失業率の高まり等を通じて社会の不満が鬱積するのが確実であることである。
 第二に、ほとんどの国の政治体制が、王政や権威主義的な体制、あるいは独裁体制であり、民主主義体制が十分に確立されておらず、社会の不満の鬱積を緩和する政治装置として適切でないこと、また、これらの体制が民主主義的な体制に変わる場合には、大きな紛争・混乱が不可避であると考えられることである。
 さらに、最後にこれら諸国の経済基盤のほとんどすべてが、石油または天然ガスの輸出に依存しているが、価格変動が大きい国際石油市場等の影響を受ける脆弱なものであることである。
 以上三つの要因は相互に関連している。一つの要因が悪化すれば、連鎖的に他の二つも悪化する構造になっている。また、大産油国の王族など富豪と非産油国の一般大衆との所得格差は極限的な状況となっており、格差解消の道筋はまったく見えない。
 このように、世界の石油輸出の中心であり、日本をはじめアジア諸国がその石油輸入のほとんどを依存している中東湾岸地域は、元来長期的には非常に不安定な地域である。
 経済躍進が著しく、これによって政治の民主化や社会の安定感が増しているアジアの状況とは大きく異なり、むしろサハラ砂漠以南のアフリカと同様で、地域の安定に向けたシナリオがほとんど書けないのである。

石井彰/藤和彦著『世界を動かす石油戦略』ちくま新書 2003年 pp.118-120

 国際政治学や国際関係論においては、一六四八年のウエストファリア条約後における三〇〇年間の欧州のように、主権国家間の勢力均衡的なパワーゲーム(ゼロサム・ゲーム)、すなわち、紛争的性質が国際関係の本質であると捉え、近年における経済や情報・文化のグローバル化の進展によっても、主権国家の卓越性や基本的な国家機能は変わらないとする前提で数理モデルなどで分析する立場と、グローバル化の進展やEUやIMFのような国際機関、さらにはグリーンピースなどのNGO(非政府組織)、インターネット等の台頭が主権国家の性格を変えたり、国家間関係の性格をより協調的にする、いわばノン・ゼロサムゲーム的に変化しているという前提で分析する立場とがある。
 前者がこれまで特に米国においては伝統的にどちらかというと主流をなしてきた「リアリズム」の立場であり、軍事戦略家とも相性がよい。ブッシュ政権のライス特別補佐官やウォルフォウィッツ国防副長官などもそれに当たるとされている。
 後者はリベラリズム(政治思想におけるリベラルとは必ずしも同じではない)、またはその発展型であるグローバル・ガバナンス派と呼ばれる考え方であり、経済学者・エコノミストや石油・エネルギー専門家の考え方と比較的相性がよい。クリントン政権下で国防次官補を務めたハーバード大学教授のジョセフ・ナイなどがこれに当たる。

石井彰/藤和彦著『世界を動かす石油戦略』ちくま新書 2003年 p.26

 事務所建設、ゴルフ場開発、リゾート開発などのためには土地を必要とします。これらのための貸出(つまり不動産融資)は、土地需要を高めることにより、地価の上昇を招きます。実際に、東京都の商業地の地価は一九八〇年代初めから上昇しはじめ、その地価上昇が周辺部に波及しました。東京圏では、一九八七年から八八年にかけて地価が一年で二倍にもなるといった地域が出現したほどです。東京圏の地価高騰は、やがて大阪圏に飛び火し、そこでも地価が急騰します。
 地価が上昇すれば、それだけおカネを借りるときの土地の担保価値が高まります。銀行やノンバンクなどは、土地を担保にとって、安心して貸出を増やそうとします。それが再び地価を引き上げ、それにともなって、さらに土地担保価値が上がり、価値の上がった土地を担保にして、いっそう貸出が増え、それがさらに地価を引き上げる、という連鎖が働き、地価は天井知らずで急騰し続けました。こうして、土地バブルが起きたのです。
 以上のようにして、一九八〇年代半ばから九〇年代初めにかけて、企業は土地をどんどん購入し続けました。この土地購入のための資金は、ほとんどが銀行やノンバンクからの借入金によってまかなわれました。
 この企業の旺盛な土地購入に対して、土地を売ったのは家計でした。土地を売った家計の多くは、売却代金をせっせと定期預金や定額貯金で運用するとともに、株価高騰の波に乗ろうとして、株式投資も拡大しました。
 以上から、一九八〇年代半ば以降から九〇年頃までの土地バブル期に、土地を売って巨額の富を得たのは家計で、企業は高値で土地を買って、土地バブルの崩壊によって巨額のキャピタル・ロス(値下がり損)をこうむることになります。
 土地バブル期には、株式バブルも発生し、株価が急騰しました。バブル期に株式を購入した最大の部門は金融機関でした。一九八六年以降、金融機関の株式購入額はそれまでよりも一ケタ上がって、一三兆円から二〇兆円に達しました。同じ期間に、非金融法人企業の株式購入も、それまでよりも一ケタ大きくなっています。しかし、株式バブルも一九九〇年代に入って崩壊し、株価は暴騰します。
 以上から、株式バブルの崩壊によってもっとも痛手を受けたのは金融機関、次いでそれ以外の企業です。家計部門はこれらの部門にくらべると、あまり痛手をこうむらなかったと考えられます。

岩田規久男著『日本経済にいま何が起きているのか』東洋経済新聞社 2005年 pp.56-58

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