水ぎわの熱なきひかり散る蛍
弧をえがく蛍の庭に草のいき
ほたぼたる碧きいのちのともしびよ
水ぎわの熱なきひかり散る蛍
弧をえがく蛍の庭に草のいき
ほたぼたる碧きいのちのともしびよ
すだれかけ猫のあしだけ覗いてる
竹林のむこうの縁がわ猫ねてる
アオガエル車にふまれて解剖図
梅雨はざまシャツの白さと葉のみどり
梅雨はざま淡き水色かたつむり
梅雨はざまアジサイ枯れた夕まぐれ
梅雨はざま西洋だねのあをい花
雨だれの音をまくらに朝寝城
雨だれに耳をあずけて夢のなか
雨だれを見つめてかすむ窓のそと
昨朝観た夢の話。
ある朝僕はテレビコマーシャルだか広告だか何だかで、以前の知り合いが著名な美容師となって日本へ凱旋帰国する事を知った。どこぞの美容室を借りて、そこで先着何名かを選び、彼女がヘアカットするのを公開でやろうという催しだ。僕は彼女会いたさに、当日その店をまで足を運ぶ。以外にも僕は被験者に選ばれ、今や遅しと彼女の登場を待つ。そして、記者や取り巻きを引き連れついに彼女は現れた。が、すっかり人が変わってしまった様子に僕は愕然する。
僕がかつて知っていた彼女は、色白で髪の毛は短く、どこか危なっかしい印象があるが朗らかな性格の持ち主だった。しかし今僕の目の前にいる彼女は、体格こそ変わっていなかったが、当時の面影はなく、肌は浅黒く長髪で、細かった顎は力強く角張って、ブラックジーンズに革のベストをぴっちりと着込み、黒いショールを羽織っていた。そして何よりも僕の目を引いたのは、彼女の右目のまぶたが黒い糸で縫われて片目になっていた事だった。
彼女に一体何が起きたのだろう。僕は狼狽しながらもそんな事を考えていた。僕の番が回ってきても、彼女は顔色一つ買えずに淡々と作業をこなした。その頃には人違いだったのかも知れないと思い初めていた。彼女はとても珍しい名前で、それだけに間違うはずもないと思い込んでいたが、こうまで印象が違うと段々と自信を失ってくる。
催しも終わり、帰り支度を始めた彼女に僕は話しかけた。どうしても確かめたくなったのだ。果たして、彼女はやはり当人であった。僕の事も一応は憶えていたらしい。そして尋ねてもいないのに自分はヘヴィメタルが好きだと言う。そんなのはその出で立ちを見れば想像出来るし興味もなかったが、僕は彼女の短い身の上話を聞いていた。
僕は彼女に尋ねる。どうしてそんなに変わってしまったのかと。すると彼女は答えた。昔の自分は仮の姿であり、自分が望んだものではなかった。今の自分が本来のものであり、ずっと求めて止まなかった姿であると。そう言って彼女は笑った。かつては余分な肉など1mmも付いていない、ほっそりとしていた顎にはたっぷりとした肉が付いていた。
僕がかつて(幾らかの恋心を以て)見ていた彼女の姿は仮のものであり、彼女曰く幻想に沿って誂えた偽物であった、などと告白されると遣る瀬無い気分になる。僕は一体彼女の何を見ていたのだ。表層のみに惑わされ思い上がっていただけではないのか。僕はかつての彼女の姿を恥ずかしいほどに信頼し、彼女は偽りを演じ続けていた。突然突きつけられたその現実に僕は呆然とするばかりであった。
そんな僕を見て彼女は笑う。その目尻には、かつての彼女と同じ皺が刻まれていた。
という夢を見た。
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