一昨日の夜の事。部屋で寝転がって漫画を読んでいると、近所から男の子の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。どうやら駅の方角から近づいてきているようだ。暫く耳を澄ませていると、男の子の泣き声に混じって母親らしき女性の声と、姉らしき女の子の声が聞こえてくる。声を嗄らし、裏返った声で絶叫する男の子を二人で窘めているようだ。
男の子の叫び声は尋常ではない。夜を切り裂くように絞り出される。母や姉が何か不条理な事を彼にしたのか、それとも彼自身が不条理たりえた結果なのか、それは判らない。理由は何にせよ、彼は彼自身の世界の崩壊を訴えているように思えた。実際のところ、その男の子が何を訴えていようと僕には関係のない事だし、そもそも理解の範疇を越えていると思うので不快ならば耳を塞いでいれば良いだけの話なのだが、響き渡るサイレンは僕にも少なくない影響を与えるのであった。
男の子の叫び声は、100Mばかり先の四つ角辺りで建物に遮られて消えた。夜は再び静けさを取り戻した。
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