DOG ON THE BEACH

A season passes. A castle can be seen. Where is a soul without a wound ?

Author: doggylife (page 36 of 193)

 彼の《全能性》が狂気の行為に逸脱することなく、この代替世界にとどまりえたのは、その信仰の篤さに与る部分が大きかったといえよう。天使と、狂信的な独裁者の両面をもつ少年がつくった世界が、今我々の心を治療するのは、ダーガー自身が描くことで体験した、妄執を浄化するよどみないイメージ化の過程、イメージとの交感の瞬間を我々が追体験するからである。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 p.159

 アウトサイダー・アートと呼ばれる作品の多くはセルフトート(独学)や精神障害者らによるものを指す。画廊などできちんと発表せず、自宅にかかえこんでいたりするいわゆる《引きこもり》タイプの制作者もこれらに入れられることが多い。
 すべてに共通するわけではないが、特に精神障害者や幻覚を見るタイプの人に多いのは、オブセッシヴ(脅迫観念的)な繰り返しの表現や、自分が語る壮大な妄想の物語、世界の創造主たらんとする細部にいたるまでの世界の作り込みである。その作品には日記とも物語の断片ともつかぬ細かな文字がイメージとともに書き込まれていることも多く、あるいは、写真や印刷物、周囲のものを集めてくるプリコラージュ的な手法によるコラージュ、オブジェなども多い。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 p.151

 人びとの潜在的な願望や創造性を引き出す力、これが次世代のキュレーションとして最も期待される能力である。タイの映画監督でアーティストのアピチャッポン・ウィーラセタクンは、普通の人びとに自宅でソープオペラの主人公を演じさせたり、役者から聞いた自伝的ストーリーをもとにその場で脚本をつくっていく。「ハリウッド映画は観客のの欲望をひきだして映像として見せる。僕の映画は僕の欲望を人びとに見せながら、観客と一緒に新しいテリトリーに入っていく」と語る彼は、この新たな文脈の創始者の一人といってもよい。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 pp.147-148

 インターフェイスや体験空間のデザインがエンタテイメントを参照することは、美術館やアートワールド全体の資本主義との関係強化とあいまって、面白いがリスキーでもある。その混乱や揺らぎは、アートが建築、デザイン、映像、社会学や科学など他のジャンルと横断的に関わり、その境界が曖昧化していることと連動する。
 総じて言えば、アートにおいて観客の関与が大きくなればなるほど、ヴァナキュラーでローカルなアートシーン、特に都市を中心としたマルチモダニズムの形成が促進されることになる。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 pp.144-145

 関係を見せる、形成するという要素には、空間と併せて多くの人的・設備的インフラを必要とする。わかりやすい例でいえば、ワークショップであるが、これは現在、普及プログラムの枠を越えて、作品形式の一部となっている。

長谷川祐子著『キュレーションー知と感性を揺さぶる力』集英社新書 2013年 p.138

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